君を好きな理由
私だって、それなりの人生経験はあるんだし、付き合ったイコールで結婚なんて事にはならないのは知ってる。

実際に適齢期的には焦ってもいい歳だから、そこを考えない訳にはいかないんだけど。

……まぁ。あまり深く考えないでおこうかな。

考えちゃうと楽しくないし、先の事ばかり考えていると何も出来ないのが現状なんだし。

果たして私に結婚するつもりがあるかどうかすら、自分の事ながら甚だ疑問視しているし。

……って、お風呂に入りながら考えているとのぼせるかな。

クスクス笑いながら、足でお湯をパシャパシャさせて遊ぶ。

よし。葛西さんの朝食作りを手伝おう。
たぶん彼の事だから、もう作り始めているかも知れないけれど、お皿くらいは並べられる。


身体を拭いて着替えると、予備のタオルで髪を拭きながら脱衣所を出た。

「ねぇ、葛西さん。お風呂の栓は抜いちゃっていいの?」

「もっとゆっくり……」

やっぱりキッチンから顔を出した葛西さんは、私を見るなり眼鏡をかけ直した。

ほんの少し、驚いた顔をしてる。


「なによ」

「化粧がないと、ずいぶん幼い顔になるんですね」

「……普段ケバいって言いたい?」

「いえ。そういう訳ではなく」

「厚塗りって言いたい?」

「お風呂の栓は抜いてしまって構いません」

あ。いきなり面倒になったわね?

「貴方はつくづく私を怒らせるわよね」

「怒らせるつもりはないのですが。色々考えた結果、話題を変えた方が良いかと……」

「解らない」

「化粧している顔も好きですが、素のはるかさんも捨てがたい。かといえ、化粧をしていると言うことは、それは女性のお洒落な訳ですから、否定するような事にはならないか不安ですし、言ってもいいものかどうか」

「解った! ストップストップ!」


とっても考えてくれたらしい。


「気にしなくてもいいわよ。私の場合は化粧は身だしなみってだけだから。仲間内じゃ男性医師に対抗するみたいに素っぴんの子もいるけどね」

「……はるかさんは、そうは思わない?」

「化粧しようがしまいが、女らしく身だしなみ整えた所で腕が下がる訳じゃなし。それなら見苦しくしないのも務めでしょ」

まぁ、化粧に集中し過ぎて、仕事に見落としがあるのは論外だけどね。

「じゃ、お風呂の栓を抜いてくるわね」

「あ。はるかさん」

呼び止められて振り返る。

「出来ればお化粧なしで」

「……私、化粧しないと青白い人になっちゃうんだけど」

今はお風呂上がりでポカポカしてるけどさ、冷めたら青白いんだよね。

「適度に光合成しましょうか」

「……日に焼けたら、赤くなって終わりなんだけど」

「いいじゃないですか。手当てしますよ」

……されたくないけど。

呆れた顔を返してから、お風呂場に戻って栓を抜いてから洗面所で腕を組む。


……言われたからじゃないもんね。

お肌にも休息は必要だから、という立派な理由があるものね。

化粧水だけつけて、ブツブツ言いながら着ていた服を持って出ると、目の前に葛西さんが立ち塞がっていた。
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