君を好きな理由
「やっぱり……」

「な、なにが」

「髪を乾かして差し上げます。回れ右してください」

「長いから時間かかる」

「朝御飯まで時間ありますから、乾かしましょう」

肩を押されて洗面所に戻ると、肩にかけていたタオルでがしがし頭を拭かた。

「いつも乾かさないんですか?」

「うーん。乾かす時の方が多いかな。だいたいまとめちゃうから、気にしていない」

「気にしましょう。せっかく綺麗なロングヘアーですのに」

「ただ伸びちゃっただけよ。自分で乾かすから……」

顔を上げると、何故か厳しい顔でブラシとドライヤーを持っている葛西さん。

「ダメです。どうせ適当に乾かして終わりにするつもりでしょう」

「どうせ私の髪だもの、好きにさせてくれたって良いでしょうが」

「良いなら放って置きます」

「貴方、干渉しすぎ!」

キッと睨むと睨み返された。

「当たり前でしょう! 自分の大切な人を疎かにする男がいますか!」


おう。

怒られた。

しかも、当たり前なんだ。


「たまには人任せになさい」

「あー……うん。ごめんなさい」

「……イラついただけです。すみません」

「えーと……私って、まぁ、素直じゃないのは知ってる」

「存じてます」

ドライヤーがオンになって、なすがまま髪を乾かされている。


えーと。でもさ、これってあんまり普通の関係に見えないんだけどな。


ご飯作ってもらって、お風呂いれてもらって、髪を乾かされて。



「あのね。葛西さん」

ドライヤーがあらかた終わって、ブラッシングされながら、どことなく楽しそうな彼を見上げる。

「はい?」

「私って、確かに女王様とか、親父っぽいとか言われるけど……下僕はいらないんだ?」

「俺は下僕にはなりませんよ。はるかさんも実は甘いですね。俺はしたいようにしているだけですし……人の命令に従うように見えますか?」

確かに、私はなにか言っているわけじゃないけどさー……

「じゃ、私もご飯作りなにか手伝う」

「あとは挟むだけですから」

「何を作ってるの?」

「以前、美味しそうに召し上がってましから、アボカドと蒸し海老のサンドイッチと、枝豆とおからのサラダにしました」

「…………」

「昼は何にしますかね」

どうしたことか、ニコニコとウキウキしている葛西さんを眺め、首を傾げた。


本当に、料理を作るのが趣味なのね。
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