\ 王 子 物 語 /
...3
 チャイムが鳴る。

 ばたばたと席に戻る女子。

 少し大人びた久田はあきれた笑い顔で、「あんたも?」と僕に訊いた。

「違うしっ」

 さらっと見えるように否定した。

 ギクッとしたように見えただろうか。

 たぶん大丈夫。

 演技には自信がある。

 授業が始まってすぐ、いとんくんが話しかけてきた。

「・・・ホントですよね、あれ」

「たぶん」

 胸が、緊張したときみたいにドキドキしていた。

 いとんくんと目を合わせて考える。

「ホントにそういう人がいると思わなかった」

 いとんくんがつぶやいた。

 愛知がいとんくんに手紙を投げた。

 いとんくんが開いて読む。

 僕も斜めから覗き込む。

 手紙の内容は、《変なことゆうてゴメン》とだけあった。

 ノートの切れ端。

 僕はまた一瞬ドキッとした。

 何にドキッとしたのかわからないが、ただ心臓がドクンとゆれたのだ。

 チラチラと愛知をみてみたが、真剣な顔で授業を受けているようにしか見えなかった。

「キモイと思いますか?」

 いとんくんがつついてくる。

「・・・ん?」

「ホモ、キモいと思いますか?」

「・・・いや・・・。わからん」

 正直に分からなかった。

 あまり実感がわかない何かがあるような感じがする。

「あの・・・お前が大丈夫なら、ですけど。普通に過ごそうね」

 いとんくんが肩に手を置いてくる。

「オトコが好きでもヘンタイでも愛知は愛知ですからね」

 5年生だけど、こうやってしっかりしてるいとんくん。

 愛知にもまけず劣らず、いとんくんも言いたいことははっきりしている。

 ただ、愛知といとんくんの違うところは、愛知は自分と好きなものだけ考えたワガママ、いとんくんは
自分に不利益でも正しいことをはっきり言う。

 そういう意味では、いとんくんのが大人かもしれない。
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