秘密と記憶が出会うとき
敬意と愛の間で
時間は夜の7時・・・普通の家庭でも高校生ならまだ門限内というところだろう。
しかし、雪貴は何も話しかけても来ないで怒っているのがわかる。


祥子は思わず、思った通りの言葉を吐き出した。


「何か言いたいんじゃないんですか?
私は釈明しなきゃいけないことは何もありません!
今日は、須藤先輩に偶然、デパートで会ったから水族館へ連れていってもらいました。
そして近くのパーラーでクリームあんみつを食べて帰ってきました。
これで文句はないはずですが?」


「文句はないよ。君がそんなに水族館へ行きたかったならなぜ、もっと早くに俺に言ってくれなかったんだと思ったくらいで・・・常識の範囲の行動だといわれれば俺には何もいう権利なんてない。」


「そうですか。
じゃ、お話ついでなんで、質問しますけど、貴文さんのとこでお母さんはお世話になることになったんですよねぇ。
私はもうここにいる意味がないと思うので、学校の寮か下宿を探そうと思うんです。
弁護士さんのお話だと、お父さんの遺産や信託財産まで私の分はあるらしくて、私が学校に行く費用は余裕だそうです。
だから、雪貴さんにも今までお世話になった分はお支払しなくては・・・と思って・・・」


「そんなことはしてくれなくていい!
未来の花嫁の生活の面倒をみるのは当たり前のことだ。」



「私、まだまだ雪貴さんのお嫁さんになるつもりはありません!
私の彼氏だという実感もないのに・・・。

もちろん、今までのことや助けていただいたことの感謝の気持ちはいっぱいあります。
ほんとに感謝しています。
だけど・・・やっぱり私はまだ・・・結婚なんて考えてなくて・・・ごめんなさい。」



「結婚したくないならまだもう少し先に延ばしてもいいが、俺の嫁になるつもりはないでは困るな。
小さい頃はずっと、俺の嫁さんになりたがったくせに。」



「それは小さくて年上の人がカッコよく見えたから・・・。
それに今まで、あまりに自分が楽しんでこなかったってわかったから。」


「何を楽しみたかったんだ?」


「だから、水族館へ行ったり、動物園に行ったり、映画を観たり・・・いっしょに買い物したり、何かを食べに行ったり・・・えっと、友達と遊びに行ったりデートしたりすること・・・。

私、学業以外は習い事とか、体力づくりとかで時間がつぶれてしまって、せっかくお料理を習っても披露する場もなくて、お友達に家で集まってもらうこともなくて・・・。
そしたら、家が苦しいって言われて・・・家庭が崩壊して・・・。」


「台所に行こうか。」


「えっ?」


「残り物で何とかなりそうな料理を作ってくれないか。
君は家政婦さんが作り置きしてくれてる夕飯を食べてもいいが、俺は君が作ったものが食べたい。
どうだ・・・?できるか、できないのか?」


「わかりました。軽めのものでいいですか?」


「そうだな、ギトギトしたものは遠慮したいが、多少ボリュームがあってもかまわないよ。
あ、そうだな・・・オムライスができるなら作ってもらいたいんだが。」


「え~と・・・冷蔵庫の中は・・・はい、オムライスならできますね。
鶏肉は明日のメニューのセットにしてあるみたいなので、かわりに焼き豚で代用させていただきますけど、いいですか?」


「ああかまわないよ。でもすごいね。鶏肉が明日の分だとわかるとは・・・。」


「数がきっちり人数分で包装してあるビニールがしっかりと結んであるから、そう思ったんです。」


「なるほど・・・君はきちんと家事のできる人だったんだねぇ。」
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