アブラカタブラ!
(三)東山動植物園
 明るい空の下では、今にも走り出しそうにムズムズしている。
目がキラキラと輝き始めた。
あれほどに怯えていた心が、今は好奇心いっぱいだ。

「パパ。あの、おっきいのは?」

 東山スカイタワーが見えた。
二百mを少し越えた高さだと聞いている。
入り口に付いたときには、小躍りせんばかりだった。

大勢の人でごった返す園内に早く入りたいと、体が前のめりになっていく。
切符を渡すのももどかしく、脱兎の如くに駆けだした。

入ってすぐの所にある橋の欄干からミストが吹き出ている。
先客の女の子が行ったり来たりと飛び跳ねているため、その中に入れずにいる。

「入っていいよ」と声がかかって、やっと飛び込んでいった。
妻は、優しい子なのよと言うが、気弱すぎるように思える。

 トラ舎でのことだ。
小動物ばかりを観てきた息子に、猛獣を観せたくなった。
男は強くなくちゃ、と教えるつもりだった。

しかし入り口で立ちすくんだまま、動こうとしない。
薄暗い中をのぞき込んで
「なにがいるの?」
と、後ずさりをしていく始末だ。
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