【完】一粒の雫がこぼれおちて。
和泉くんと2人、バスに揺られる。
「行きたいところがあるんだ。」
そう言った和泉くんだけど、それはどこなのか聞いても答えてはくれない。
時間にすれば大体30分ぐらい、バスに乗ってたと思う。
端っこから端っこ、あまり来たことがないところ。
「少し歩くよ。」
「あ、ちょっと待って!」
先行く和泉くんを追って、私は隣に並んだ。
ふと横目で見た和泉くんの表情は、どこか切なげ……。
少し、寂しそうに見えた気がした。
「…………僕さ。」
「え?」
前を向いたまま、和泉くんは口を開いて。
私の手を掴んだ手の平に、ギュッと力を込めてくる。
夏の近い5月末。
和泉くんの手は、冷たかった。
〝アイス系男子〟
和泉くんが、学校でそう呼ばれていることを思い出す。