【完】一粒の雫がこぼれおちて。





和泉くんと2人、バスに揺られる。



「行きたいところがあるんだ。」



そう言った和泉くんだけど、それはどこなのか聞いても答えてはくれない。



時間にすれば大体30分ぐらい、バスに乗ってたと思う。


端っこから端っこ、あまり来たことがないところ。



「少し歩くよ。」


「あ、ちょっと待って!」



先行く和泉くんを追って、私は隣に並んだ。



ふと横目で見た和泉くんの表情は、どこか切なげ……。


少し、寂しそうに見えた気がした。



「…………僕さ。」


「え?」



前を向いたまま、和泉くんは口を開いて。


私の手を掴んだ手の平に、ギュッと力を込めてくる。



夏の近い5月末。



和泉くんの手は、冷たかった。



〝アイス系男子〟


和泉くんが、学校でそう呼ばれていることを思い出す。





< 166 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop