【完】一粒の雫がこぼれおちて。





やっぱり、彼は優しい。



眠りの浅い私だから、起こしてさえくれたら直ぐに起きた。


だけどそれが無かったということは、和泉くんは1回も私を起こさなかったということ。



こんな時間になってでも、和泉くんは私が起きるのを待っててくれた。



「……うれしい、な……。」



夕日のせいか、頬が少し熱く感じる。



私は空になった弁当箱と、落ちていたブルーベリーパンの袋。


そして和泉くんが忘れていった本2冊を拾い上げる。



本をギュッと抱きしめると、新鮮な紙の匂い以外に、ほんのり和泉くんの香りがする……気がする。


気がする、だけど。



ついさっきまで肩に掛かっていた和泉くんの学ランからは、ちゃんとはっきり和泉くんの香りがした。





< 36 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop