【完】一粒の雫がこぼれおちて。
家の中は案外と片付いていた。
元々、こういう性分のせいか。
他人の家では何かと警戒してしまう。
家に入った途端に香ったキツメの香水は、どこかで嗅いだことがある気がした。
「……兄さんと倉橋なら3階だよ。」
松江の言葉に頷いて、階段を駆け上がろうとする。
「和泉。」
なのに1度、松江に引き止められた。
僕を呼んだ松江の声は。
少し、悲しそうに感じた。
「兄さんを、救ってやって。……本当はあんなこと、したくないんだよ、兄さんだって。」
「……意味不明。」
ここに来る際の〝厄介〟の言葉は、決して鬱陶しがってるんじゃなくて。
僕と同じように、〝暴力の愛情表現〟に賛成してないだけなんだと思った。
松江を1人玄関に残して、今度こそ僕は階段を上って行く。