【完】一粒の雫がこぼれおちて。
3階に上るにつれ、香水の臭いが強くなっていく。
玄関では全く聞こえなかった声も、3階への階段に差し掛かれば普通に聞こえた。
「っ……愛してる、しずく。」
その声は紛れも無い、電話で聞いた声で。
表札に彫られていた、〝松江大地〟の声だと分かった。
「……それ、返してくれない?」
躊躇なく奥の扉を開いて。
倉橋の首に手を掛けている、目の前の男を見る。
「おまえみたいな下種が触れていいほど、ソイツ汚れてないからさ。」
床に倒れ込んだ倉橋の、服の間から見える傷痕。
真新しい青紫の痣や、煙草で焼かれた無数の火傷の跡。
その数は今日僕が学校で見たものより、もっと多くて。
もっと、痛々しい。