咲かない花
「・・・こっちで彼女、できた」

数秒の沈黙の後、答えてくれた彼の正直さを証明するかのように、「まだ電話終わんないの~?」という可愛らしい女性の声が、彼のスマホから聞こえてきた。

「すぐ終わるから黙ってろ・・・ごめん」
「ううん」
「俺、そっちにいつ戻れるか分かんねーし。また別のところに転勤になるかもしれない。でも茉莉は、俺についてくる気、ないだろ?」

まるで自分を正当化するような言い方に、別れることになったのは私のせい、みたいな言い方に、一瞬ムカついた。
だけど、この人が言ったことは正直言って・・・正しい。

私は今の仕事が気に入ってる。
三笠学園という私立高校の、美術教師という仕事が。

だからかな、彼から別れを切り出されても、それほどズキンと痛みがないのは。
彼のことは好きだからつき合ったけど、実際のところ、それほど彼に入れ込んでなかったからかな。

たぶん、彼も私に入れ込んでなかったみたいに。

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