ジャンヌ・ダルクと女騎士

あなたが心配

「だから、心配なんです!」
 シモーヌはそう言うと、怖い表情で彼を睨みつけたが、怒っているというよりは泣きそうな表情に見えた。
「と言われてもなぁ、これでも一応男だし、君より年上だからな。君が慕っているお兄さんより五歳年下なだけで……」
「そうなのですか?」
 そう尋ねると、シモーヌはヨウジイを睨んだ。
「随分、バートさんと色んなお話をしたのね、ヨウジイ?」
「す、すみません、お嬢様!」
 ヨウジイはそう言って頭を下げたが、思わず土下座でもするのではないかという程の勢いだった。
「……まぁ、いいわ。お前は、兄上に心から心酔してるんだもの。兄上のことを聞かれて、喋らない訳が無いものね」
 シモーヌがそう言って溜息をつくと、ヨウジイは顔を少し赤くした。
「喋り過ぎましたか? もうご存じでおられるのかと思って、リッシモン様のお名前は出してしまいましたが、それ位しかお話しておりませんが……。お嬢様とリッシモン様の関係等は……」
「喋り過ぎよ!」
 シモーヌが厳しい口調でそう言うと、ヨウジイはシュンとなってうなだれた。
「申し訳ございません……。もう私はこれで失礼致します。その方が良さそうですので……」
 そう言うと、ヨウジイはチラリと自分とあまり背の変わらない少女を見た。
 が、彼女は彼を見もせずに、むこうを向いたまま、黙っていた。
 止めてくれないというのが分かると、彼は溜息をついてそこを後にした。
 その後姿を見送りながら、バートも溜息をついた。
「可哀相なことをするなぁ。もう少し優しくしてやったらどうだ?」
「これでも、優しくしているつもりです」
「どこがだ? あいつの気持ちに気付いてるんだろ?」
「それは、まぁ……」
 シモーヌはそう言うと、顔をしかめた。
「だったら、もう少し優しくしてやったらどうだ? それとも、他に好きな男がいるっていうんなら、キッパリ振るっていうのも手だぜ?」
「そういうものですか?」
 そう言うと、シモーヌはバートが半身を起こして座っているベッドの端に腰を下ろした。
「そういうものだろ、普通。何だ、相手は兄貴なのか?」
「違います!」
 シモーヌはそう答えると、バートを睨んだ。
「じゃあ……俺、とか?」
 バートがそう言った途端、彼を真っ直ぐ見ていたシモーヌの顔が真っ赤になった。
「え、まさか、マジでか?」
 言った本人も冗談のつもりだったので、相手の反応に驚き、そう言うと、彼女は一度うつむいた後で、赤い顔のまま、尋ねた。
「いけませんか?」
< 29 / 222 >

この作品をシェア

pagetop