孤独 ‐哀しみの海底‐
第一章

僕の彼女は
声を無くしたかのように
表情を変えず、
毎日ポロポロと涙を溢していた。


「私は平気。大丈夫。なんでもないの。」


それはすべて嘘だった。
彼女は嘘をつく。


「私は大丈夫。疲れただけ。」


突然涙する彼女に
僕がなにを聞いても
決して、
彼女は答えなかった。


僕は彼女が涙を流す度に
抱き締めることしか
出来なかった。
そんな僕に彼女は


「ありがと。ごめんね…。」

と、繰り返すばかり。



ただ抱き締めることしか出来ない僕に
ありがとう。と、感謝の言葉。
そして
ごめんね。と、謝罪の言葉。


そして僕が
彼女の耳元で囁く。



「そばにいるよ。大好きだ。」







だがある日突然、
彼女は死んだ。




手の届かない場所に
彼女は
僕一人を置いて
旅立ってしまった。



初夏を思わせる
晴れ渡った暖かい陽射し。
温かくなり、桜が一気に満開に咲いた、
あの日。
火葬場にて、
建物の煙突から
煙になった彼女が
空高く真っ直ぐに上がって行く。



僕は天国に行く彼女を見送った。


さよならも言えないまま、
抱き締めていたはずの彼女は
僕の腕から離れて
遠くに消えてしまった。



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