彼女の涙は赤かった。
でも、自分の事を思って泣いてる人を見過ごせるような冷めた人ではない。

「……………大丈夫、、?

…………………今だけ、ぬいぐるみ貸してあげる。」

久々に出した声は思ったより小声で掠れていた。

何年ぶりに人と話したんだろうか。

思い出せないほど前なのは確かだと自覚している。

「ッ!!

ありがとうッ!」

理事長はそう言って私のぬいぐるみを静かに手を伸ばした。

その瞬間、私はこの人を少しだけ信じてみようかなって思った。

数分経った後、理事長は泣き止んで私に少し切なそうに聞いた。

「…………………そういえばなんでこのぬいぐるみ所々赤かったり、ピンク色なの?

こうゆう柄なの?」

そう理事長は聞いてきた。

………違う。

でも、理事長は知ったらきっと変な目で見るでしょ?

「………………………………違う。」

小声でそう言った。

「え?

違うの?」

だって、この赤いのはね、

私の涙なのだから……。

「……………涙。」

そう言うと理事長は目を見開き絶句した。

そんなに目を開かなくてもと正直思ってしまうのも無理はない。

「……………見たいの?」

無意識にそんなことを言っていた。

理事長は静かに『コクリ』と頷いた。

「(ツーッ)」

気付けば頬を流れる液体は透明だが、それとは違う赤色の液体が流れた。

理事長はその瞬間、息を飲んだ。

「……………面白いでしょ?」

小声でそう言って少し微笑んだ。

……私何言ってるんだろう。

面白いはずないのに、自分でも思ってすらないのにここまで狂った私は何故こんなこと言っているのだろう。

「ごめんねッ!!」

理事長はそう言った。

「………え?」

気づいた時には理事長の香水の匂いや汗の匂い、そして僅かに濡れた私のYシャツの肩の感触。

……なんで理事長は私の事抱き締めてるの?

……なんで理事長は泣いてるの?

「嫌な思いさせてごめんッ!!

悲しませてごめんッ!!

何にも言えないでごめんッ!!

もっと早く救ってあげられなくてごめんッ!!」

そう言いながらまた大泣きしていた。

………でも抱き締められるのは何年ぶりで落ち着く香水の匂い、温もり、頬に当たる髪質は、

『こんなにも良いものなのか』と思った。

しだいに、下がってきた瞼を抵抗すること無く私は目を閉じていた。

この後の先生達の会話に私は気づかずにただただ眠り続けた。

そのとき見た夢はいつも真っ暗闇で過ごす夢ではなく雲の上に乗っているかのような、眩しくふわふわとした夢であったのは鮮明に覚えている。












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