麗雪神話~炎の美青年~
間近のディセルの顔は、怒っている。

「姫巫女である前に、セレイアはただのセレイアだ! 一人の女の子だ! どうしてそう危険なことばかりする! 俺は君を守りたいのに――――」

「………」

至近距離の銀の瞳が、たとえようもなく美しい。

白銀の、雪の瞳。

セレイアは言葉を失っていた。

掴まれた両腕の部分が熱い。

胸も熱い。

動悸がしている。

その感覚はひどく懐かしいものだった。

とても懐かしくて、胸が痛い―――。

「……はなして、ディセル」

「いやだ」

「はなしてよ……」

不覚にもぽろっと涙が出た。

悔しいのでも、悲しいのでもないのに、涙が出てしまった。

自分でもなぜ泣いているのかわからなかった。

ディセルはセレイアの涙を見て、ひどく狼狽した。

「ごめんセレイア。泣かないで……」

ディセルの腕の力が緩む。

その隙に、セレイアはディセルの下から抜け出した。

ぐいっと涙をぬぐい、頭を下げる。

「お願いよ、ディセル。隣町に行って、霧から町を守ってあげて。
私はトリステアを守るから。お願い、お願いします…」

身勝手な願いだと、わかっている。

けれど、セレイアにはトリステアを見捨てることなどできないのだ。

その気持ちが伝わったのか、やがてディセルはこくんと頷いた。

「……わかった」

ディセルはうつむいている。

セレイアは彼の顔を見ないようにして、踵を返した。

獣舎に行ってプミラを連れて来よう。

そしてカティリナたちを追おう。

今はそのことだけを考えていたかった。

涙の理由も、動悸の理由も、知りたくなかったのだ。
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