……っぽい。
 
そう言うと、笠松は肌に貼りついている自分の服を乱暴に脱ぎ、私の服も脱がせ、むき出しになった冷たい体に涙ともシャワーのお湯とも分からない水滴をいくつも落としながら頑なに閉じていた私の脚の間に自分の体を入れた。


いつもは自信たっぷりに私をリードし、仕事の面でもなんでも器用にこなし、余裕すら窺える笠松がこんなにも何かに怯えていて。

それを振り払おうと一心不乱に私に縋って。

そんなふうにして笠松に抱かれたのは、後にも先にもこの夜が初めてだった。





それから少しして、世間が夏休みに入った頃、笠松はこの夜のことが嘘のようにハツラツとした顔で全国キャンペーンに出かけていった。

『めんこい課』の面々に拍手喝采で送り出される笠松を私一人だけが複雑な心境で見守っていると、ふとした瞬間に目が合い、みんなと同じようにハツラツとした笑顔を向けられる。


あの夜の、あの笠松は、なんだったんだろう。

しほりにも香久山さんにも相談できずに、あれからずっと心の真ん中で抱え込んでいるモヤモヤは、今日も晴れるどころか、ますますその靄を濃くして私の中をグルグルと渦巻いている。





どうしよう、私彼女なのに、大好きなのに。

笠松が分からない……。
 
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