……っぽい。
 
つくづく思う。

笠松が近くにいてくれてよかった。

体を戻すと、笠松に訪ねる。


「あ、ねえ、今から行こうか? 焼肉」

「それは今度で。今日は、先輩に飲ませたい気分なんで。さっさと部屋に帰りましょう」

「……?」


けれど笠松は意味深にそんなことを言い、私が注文したホットミルクティーの伝票をサラリと手に持つとレジカウンターへ向かった。

いや、まだ飲みかけ……。

というか、今朝も会社で難しい顔で何かを言いかけて急にやめたし、今も私に飲ませたいとか不思議なことを言い出すし、おかしくない?


「あ、待って!」


笠松の様子に引っかかるものはありつつも、そそくさとお会計を済ませて店を出ていこうとしている笠松を、私は慌てて追いかける。

帰るところは一緒だけれど、ミルクティーのお礼もまだだし、奢ると言ったからには笠松が好きな焼肉店も聞いておかなければならない。


「ね、笠松はどこの焼肉屋さんが好き?」


店の外で追いつくと、さっそく聞いた。

けれど笠松は曖昧に笑うだけで何も答えてはくれず、なぜか私の手を痛いくらいにぎゅっと握って無言で帰り道を急いだだけだった。

……なんか変なの。

笠松のくせに。
 
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