Switch
「あ、ああ……。すまねぇ。良いとこのお嬢さんに、失礼しちまった」

 素早く手を離し、頬を掻きつつぺこりと頭を下げる。
 ついでに恥ずかしそうに、はにかむのも忘れない。

 機嫌を損ねられたら困る。
 お付きの者が、我に返って本来の役割(娘の用心棒)を思い出しても厄介だ。

 最後のはにかみ笑顔が功を奏し、お付きの者も娘も、貫七を不審者扱いすることはなかった。
 ここまで己の外見一つで周りを操る者も珍しかろう。

「噂の術者ってのを知ってんなら、是非とも教えて貰いたいと思ったら、つい。いや何ね、俺も昔っから噂だけは知ってたんだよ。でも会ったこともねぇしさ。妖怪みてぇな、伝説的な話かと思ってたから、つい興味が湧いちまって」

 表情といい言葉といい、よくもまぁこれだけ嘘を並べられるものである。
 もっとも言っていることは、丸っきりの嘘ではないので、澱みなく口から出るのだろうが。

「そ、そうですよね。わかりますわかります。私もそんなもの、丸っきり信じてませんでしたもの」

 赤い顔でこくこく頷く娘は、貫七の食いつきように引くこともなく、むしろこの話題であれば貫七の気を惹けることに嬉々として、こちらからこれ以上催促しなくても、話を再開してくれた。
< 101 / 252 >

この作品をシェア

pagetop