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 それから約十年。
 京の中はもちろん、噂を頼りに津々浦々歩き回ってきた。
 だが、いまだに一度抜けた魂を身体に戻すことなど、出来る術者はいない。

 この茶屋に居着いたのも、闇雲に歩き回るよりも、今後は出来るだけ確実な情報を元に出向いたほうがいいと思ったからだ。
 街道から少し外れたこの茶屋は、人目を忍ぶ客も多い。
 そういう噂を得るには丁度良かった。

 りんの身体は、行者の元にある。
 抜け殻の身体を維持しつつ、保管することぐらいは出来るらしい。

 もっともこの十年、行者の元には帰っていないから、りんの身体がどうなっているのかは知らないのだが。

---りんが普通に生きてりゃ、俺とそう変わらねぇな。同じように女子をからかって遊ぶことも出来ただろうに---

 りんが命を落としたのは、修行中に山犬に襲われたからだ。
 貫七はすでにそれなりに大きかったので、持っていた木刀などで追い払えたが、山犬は獲物の力を瞬時に見抜いた。

 貫七には敵わないと見るや、大方がりんに群がったのだ。
 貫七が助かったのは、そのためだとも言える。

 元々身体の小さかったりんは、たちまち山犬の餌食になった。
 騒ぎに気付いた行者が、火薬玉で追い払ってくれなかったら、貫七とて危なかっただろう。
 何せ自分に向かってきた山犬を追い払った後も、りんに群がる犬たちに立ち向かう勇気はなく、ただ震えながらへたり込んでいただけだったのだから。
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