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「……初めの頃はね、男なのに、何でこんな格好しなきゃならないのか、とか思ったよ。で、母上が寝た後とかに、父上の着物を着てみたりした。でもねぇ、何か、それでも違和感は拭えなかったんだよね。で、女に戻るとしっくりくる。女の格好だと店の中とか自由に動ける。男の格好は、こそこそしなきゃならない。しかも母上がおかしくなる。店の者やお客がちやほやしてくれるのは女の格好のときだ。私が女であれば、全てが穏やかに進んでいくんだ。……人間、楽なほうに流されるもんだろう?」

 このお嬢さんの、どこか投げやりな物の考え方は、そういった環境から培われたものなのか。
 確かにお嬢さんの言う通り、お嬢さんが女装を止めて男として立てば、奥方は壊れ、店の者は仰天し、馴染み客は離れるかもしれない。

 怒涛の騒ぎが起こるだろう。
 考えただけでも、ぞっとする。

「そっか……。そんな深い理由があったんだな。単なる我が儘お嬢と思って悪かったよ」

 可哀想、というのは同情でしかない。
 そんな安っぽい言葉、欲しくはないだろう。
 その代わりに、貫七はずばりと本心を言い、ぺこりと頭を下げた。

「……ま、我が儘は我が儘だよ。それぐらいでしか、反抗出来ないからね。性格も曲がるわな」

 ふふ、と笑い、お嬢さんは窓辺に寄りかかった。
 窓枠に腕をかけ、足を投げ出す。
 言葉遣いも、随分乱暴だ。
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