無感動少女が恋に落ちたら
無感動少女、恋を知る

昔から何にも執着しない主義だった。


それとこれとがどう関係あるのかと聞かれれば、
黙秘するしかないけれど。

とにかくそうだったのだ。



「宇佐見?」



制服の袖を引っ張った。
帰ろうとする彼を校門前で引きとめた。

彼はそれに唖然としていた。


「なに、どうしたんだ」


あぁなんで引き止めてしまったんだろう
考えもなしに。

最近のわたしは、わたしでさえ出会ったことのないような、


「うさ、」
「行かないでほしい」


あぁまた唖然としてる。

口をぽかんと開けたマヌケな顔。

だけど心底、


「……行かないけど」


この手はなんですかと聞かれても
やはり黙秘するしかなくて、
ふたり黙ったまま下校のチャイム。



たいしたことは何もなかった。

ただ彼と彼の友達の会話を聞いて
彼の価値観を知って
変な人だなと思って
わたしこの人好きかもなと思って
いつか絶対手に入れたいと思った。




それが




「……うさみ。宇佐見さん。宇佐見ちづるさん。」
「はい」
「意外とアクティブ」
「そうですね」
「違う。違うだろ。なんていうかこう、おれが茶化したら、
冷やかに"ふざけてるんですか?"って返すんだ、クールビューティー宇佐見は」

「司馬くんいつも真剣なんでしょう?」

「……まぁな」



そう言えばそんなことも言ったね。と彼は頷く。
偏ったイメージは、今ここで払拭してほしい。

わたしはまだ彼の袖を離せないでいる。



「なぁ宇佐見さん」
「はい」
「これ、告白?」
「違います」
「じゃあ何この煽りよう」


黙秘。


下校する生徒たちが、こっちを気にしながら横を通り過ぎていく。


「……宇佐見、」
「私が恋をするのは、たいてい一瞬だから」
「……一瞬?恋?……何に?」
「夕暮れの、あの電線すてき、とか。雨の降り止んだ大気の匂いが、すきだとか」
「変わってんね」
「でもその時だけ、一瞬でおわるの。思い返すことも、ない」




「珍しいと思う」
「おれ?おれはただの男子高校生だよ」
「違うそうじゃなくて」




「わたしがこんなに何かに執着すること、」









「滅多にないから」











絶対手に入れたいものができた。

もうそれなしじゃダメだろうなと思った。

手に入れる前から手放せないでいる。



「……なんでかなぁ」



彼に抱きしめられながらそう思った。
そう思ったら口に出ていた。


より強く抱きしめられた。


「……なんでってお前そりゃ、」






「それが恋だろ」








あぁ、

そうなの。

これが。





わたしはやっと、手に入れたのね。
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