オトナの恋を教えてください
「柏木さん、汗で頭べたべたなので……」


「全然、イイ匂いしかしないよ」


俺はわざと顔を近付け、いろはの耳朶に鼻先を触れさせる。
いろはがカチンコチンに緊張しているのがわかる。


「あー、今ちょっとキスしたくなった」


「ええ!?」


いろはが叫ぶ。動揺してるな。


「本気だよ、でも今はやめとく」


俺はさっと身を引き、座席に背を預ける。

距離が空いたので、いろはがほっとため息をついた。
そんなあからさまに安堵するなよ。


「頑張ってるいろは、すごく魅力的。その調子で俺のことをドキドキさせてくれ」


上から目線で言ったのに、いろはは嬉しそうに頷いた。


「はい、柏木さんが苦もなく抱けるような良い女を目指します」


俺たちの関係は、このひと夏で終わる。
胸が少し苦しいのは、きっとこの非日常感を惜しむ気持ちがあるからだ。

まるで夏休みの終わりを悟った子どもみたいに。





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