この列車は恋人駅行きです。




「あぁ、今日も王子かっこよかったー。
もうスーツが似合いすぎて、ごちそうさまって感じ」


「…へぇ。今日はスーツだったんだね、王子。
……って、どうでもいいわ、あんたの目の保養の王子なんて」



私の話に同僚の小彩(さあや)は、新しくしたネイルを触りながらため息をつく。



私と小彩の朝の会話は、私の後ろに並ぶ王子の話で始まる。



そして私の朝は、あの王子をみることで始まる。



王子様のように優しい瞳をしていて、風が靡く度にフワリと揺れる栗色の髪。
その人を見るだけで、朝眠くて不機嫌な私を一瞬にして癒してしまう魔法使いのよう。



「一年近くも毎日王子の話してるけどさ、ぶっちゃけ王子のこと好きなの?」



…好き?私が王子を?



「好きとかそういうのはない。
私の王子は…なんていうか目の保養?」



おそらくあの王子は見た感じだと私よりも若い。



それはつまり、年下ということ。



「私、年下とか論外だし」



< 2 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop