まだ、心の準備できてません!

夏輝さんに連れられてやってきたのは、商店街から歩いて十分ほどの、雑居ビルの地下にある居酒屋……ではなく、バー……とも違いそうなお店。


「ここって……まさか、スナック?」


階段を下りた先に現れた、白いタイルの壁と、電光に照らされた黒い看板を見た私は、ぽかんとしながら言った。

どーんと目に飛び込む存在感があるその看板は、ピンク色の文字で“Blaze(ブライズ)”と書かれ、ハートマークまで付いている。

綺麗そうだけれど、この派手な雰囲気はスナックかな……と予想していると、夏輝さんは「あぁ」と言って頷いた。


「料理も和洋中なんでもあって美味いし、何よりママが面白いんだ」

「そ、そうなんですか……」


にこりと微笑む彼に、私は微妙な笑みを返す。

ママがいるスナックってことは、やっぱりカラオケとか付いてて、おじさん達がわいわいやるようなとこなんだよね?

大人の色気溢れるこの人なら、なんとなく小洒落たバーとか選びそうだと勝手なイメージを持っていただけに、ギャップがありすぎて……。


「ご不満?」

「えっ!? あ、いや全然!」


本当はちょっと、というか、かなり場違いな気がしてるけど!

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