まだ、心の準備できてません!
「せっかくの誕生日にそんな顔して過ごすのか。しかも一人で? 花束とマカロン持って? 寂しいな」

「うっ……」


えぇ、急に毒を吐いてくるんだけど、何この人!?

私がカッチリと固まると、彼は哀れみと意地悪さを織り交ぜた表情から、ふっと自然な笑みに変わる。

そして、優しい声色でこう言った。


「一人より二人の方がいいだろ。俺と一緒に過ごさないか?」


──ドキン、と一際大きな花火が上がると同時に胸が鳴った。

紳士的な人かと思えば、強引だったり、意地悪だったり、本当に掴み所のない人。

でも、何故かついていきたくなってしまう、不思議な魅力を持っている──。


夜空を見上げて歓喜の声を上げる人達の中で、私は夏輝さんだけを見つめて口をつぐんでいた。

私が断らないことをわかっているかのように、彼はもう何も言わず、笑みを浮かべたまま前を向く。

街へと向かって歩き出す背中を、私は自然と追っていた。


……自転車は後でいいや。置いて帰ったっていいし。

今はそれより、彼の言う通り一人でいたくないし、それに……

もっと知りたい。夏輝さんのことが──。


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