まだ、心の準備できてません!
「バカにしないで……」


また込み上げてきた涙をこぼしながら、さっきとは打って変わって弱々しく呟いた。

あの時の私の恋を否定されたくはない。

先輩に本気の想いを受け止めてもらえなかった無念さも相まって、泣きながらカウンターに突っ伏した。


あぁ……なんて面倒な女なの。酔っ払って号泣しちゃうなんて。

というか、よく知らない男性の前で醜態を晒してるのがヤバいよね、私。

夏輝さんも、きっと呆れているはず……。


「ごめん、悪かったよ」


予想に反して優しい声がしたかと思うと、頭にふわりと手が乗せられた。

大きな手が包み込むようにそっと私の髪を撫で、それだけで途端に安心感に包まれる。


「でもバカにしたわけじゃない。そんなヤツのことで、君が悩まされてるのが気に入らないだけだ」


私に呆れたわけではないらしい言葉を聞いて、泣き顔を少しだけ上げる。


「今、君を泣かせてる俺が言える立場じゃないか」


薄い笑みを漏らした夏輝さんは、指に挟んだ煙草をくわえた。左手は、私の髪を撫でたまま。

……やっぱり、この人の思考はよくわからない。

でも、泣いているにもかかわらず、今彼にこうされているのが心地良いのは確かだった。

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