まだ、心の準備できてません!
──な、んで。

何でこんなことを言われているの、私は……!?


なんだかもうワケがわからなくて。パニック状態の頭の中で、ぷつん、と糸が切れたような感覚がした。

クラクラして、目の前がぐにゃりと歪む。


「美玲ちゃん?」


夏輝さんが呼ぶ声と、野太いけどビブラートを効かせたジャスミンさんの歌声が遠くに聞こえる。

急激に瞼が重くなって、身体の力が抜けて……

そこまでで、私の記憶は途切れた。




──いつの間にか、私は芝生が覆う丘の上にいて、そよそよと心地良い風に吹かれていた。

周りに咲き誇る綺麗な花から目線を前に向けると、微笑みながらも真剣な目をする陽介がいる。


『みーちゃん、僕だってちゃんとしたオトコなんだよ?』


そう言う彼にドキリとして、でも彼の眼差しから何故か逃げたくなって目を逸らした。

すると、花がどんどん遠ざかって、周りの景色も小さくなっていく。


私……気球に乗ってる?

そう気付いてふと隣を見やると、今度は夏輝さんが、色気のある笑みを浮かべていた。


『君が欲しいんだ、美玲』


心臓が飛び跳ね、上がる心拍数に比例して、もう彼のもとから逃げられない高さへと上昇していく。


──その不思議な夢の中に、憎くて、大好きだった先輩の姿が現れることはなかった。




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