まだ、心の準備できてません!
彼といたこと自体が夢だったような気さえしてくるけど、服に残っている煙草の香りが現実だったことを証明している。

間近で見た整った顔や、色気のある声を思い出すと、また心臓の鼓動が早くなってしまう。

……でも、それより二日酔いをなんとかしたい。今日はたまたま休みを取っておいたからよかったけど。


「とりあえずシャワー……」


ゆっくり身体を起こすと、胸がムカムカしてくる。

お酒が弱いことは自覚していたけれど、カクテル三杯でここまでなってしまうとは。


自分の不甲斐なさに落ち込みつつ、ベッドから降りると、小さな丸いテーブルの上にあるものに気付く。


「あ……」


薄明るい部屋に存在感を放つのは、誕生日プレゼントの花束と、マカロン。

その脇に、一枚のメモ用紙みたいなものが置かれている。

それを見た瞬間、私は身体の不調も忘れるくらい唖然としてしまった。


“心の準備をしておくように”


名前もなく、その一言だけ。

けれどそれは、ここへ彼が来たことを物語っていて、私をもらうという言葉が本気であることを裏付けているように思えた。


「な、何なの、いったい……!?」


わからないことだらけで、また身体の力が抜けてしまった私は、へなへなと座り込む。

少し右肩上がりの綺麗な字を見つめたまま、しばらく動くことが出来なかった。


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