まだ、心の準備できてません!
でも、いくら謎めく彼でも、さすがにそんな無粋なマネはしないだろう。

部屋まで来て、べろべろに酔った私に手を出すのは容易かったはずだけど、何もせずに帰っていったのだから。

そういう下心はない……はず。


「はぁ……また頭痛くなりそう」


考えてもわからないことだらけで、私はため息をつきながら、洗濯をしようとキッチンを離れた。

洗濯機のスイッチを押そうとして、昨日涙まみれになったハンカチを入れていないことに気付き、二階の自分の部屋へ向かう。


昨日は夏輝さんのことをもっと知れるかと思ってついていったのに、結局謎が深まるばかりだ。

彼の職業はお父さんに聞けばわかるのだろうけど、今はそれよりも昨日あったことの方が気になって仕方ない。

急に夏輝さんのことを聞くのも、違和感ありまくりで変に思われそうだし。


携帯番号すらも教えてもらわなかったから、いろいろと聞きたくても連絡は取れない。

今日は休みだから、彼がマシロに出向いたとしても会うこともない。

それは陽介にも言えることで、こちらは会わないと思うと少しほっとしてしまう。

夏輝さんのおかげですっかり頭の隅に追いやられていた陽介だけど、今彼に顔を合わせるのはやっぱり気まずいから。

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