まだ、心の準備できてません!

お父さんが配達から帰ってきた午後一時。

彼の後から姿を現した人物に、私はドキンと心臓を跳ねさせた。


「陽介……!」

「よっ、みーちゃん」


目を開いて固まる私に、陽介はいつもと変わらない笑顔で片手を上げる。まるであの日のことなんて何もなかったかのように。

陽介みたいに自然と笑えずにいる私に、お父さんが笑いかける。


「ちょうど今そこで会ったんだ。陽介くんもお昼だっていうから、美玲も休憩してきていいぞ」

「へっ」

「そうよ。たまには仲良く外で食べてきたら?」


声が裏返る私に、一つに束ねた長い黒髪を揺らして近付いてきた阿部さんも平然と促すけれど、顔はものすごくニヤニヤしている。

あぁ、そういえばお祭りの時のことはまだ内緒にしたままだから、私と陽介のことを誤解しているのか……。

微妙な笑みを浮かべつつ、ちらりと陽介を見やると、彼は相変わらずニコニコしながら言う。


「行こうよ、みーちゃん。外でランチなんてOLさんみたいだしさー」

「別に私、OLへの憧れはないんだけど」


自然といつものノリでバッサリと返すと、叱られた子犬みたいにシュンとする陽介。

垂れた耳が見えるような彼に笑いがこぼれ、少し強張った気持ちがいくらか解れた。

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