ひと夏の救い
少年は、母親が音楽の教師であったことも手伝ってか、
一般的な子供達よりピアノの上達が早かった。

それ故にピアノ教室でも孤立気味であったのだが、
それほど時期に差異なく少年と同じレベルに達した少女がいた。

それが少年の言う、アキちゃんである。

アキちゃんは大人しい性格で、
何よりとても可愛らしい顔立ちをしていたたためにピアノ教室の先生からも可愛がられていたので、
生徒達の中でも目立った存在だった。

内気な少女は最初、少年と目も合わせられないほどであったが、
なにせ二人だけの同い年の同じピアノレベルの子達。
次第に打ち解けていった。

少年にしては珍しく積極的だったのは、少年の両親を密かに驚かせた。

多分、主に女王様な少女の影響で学校の大人しい子と接することが出来なかったが、
のんびりマイペースな少年には少女のような大人しい子が合っていたのであろう。

話すようになってから少年は、
誰にでも敬語を使うのが特徴的なその少女と急速に仲良くなった。

どちらも猫が好きだったというのも嬉しい共通点だった。

しかし、同じレベルだからといって毎回毎回会えるわけでもなかった。

昨日の少年のように、会えない日も少なくなかったのだ。

その度にこうして少年が暗雲たる空気を垂れ流すことになっていたのだった。

いくつかの授業を終えて昼休みになると、
周囲に睨みをきかせながら取り巻きを連れた少女が少年に近寄ってきた。

「ねえねえ、もも達と一緒に遊ぼう?」

にっこり笑って少年に話しかけるが、
少年はまだお昼ご飯を食べ終わっていなかった。
スーパーマイペースである。

「…僕、まだ」
「ほら、早く!」

グイグイと少年の腕を引っ張り、無理やり立たせる。
箸を取り落としたのもそのままに外に連れ出されてしまった。


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