課長の独占欲が強すぎです。

「俺が有栖川栞の担当になったのは、彼女が文学賞を獲ったすぐ後だ」

 抱きかかえた私の頭に顔を寄せ、和泉さんは語り出す。私は黙ってそれに耳を傾けた。

「若くして文学賞を獲った名誉とまだまだ潜在している彼女の才能に、俺は期待を寄せずにはいられなくてな。必死になって彼女に良作を生み出させようと激励した。けどな」

 そこまで語った和泉さんの声色が僅かに沈む。それがこの後の悲劇を物語っているみたいに。

「俺の馬鹿な期待が、近くに居すぎた存在そのものが、有栖川栞に過剰なプレッシャーを与えていたんだ。『期待に応えられるものが書けない』と泣く彼女に張り付いて励まし続ける事が自分の役割だと信じて疑わなかった」

 その姿は容易に想像できた。今でも仕事熱心で一途な和泉さんだもの、若かった頃はさらに熱心で……それはきっと言い換えると融通が利かない性格だったとも言えよう。

 悪意は無い、純粋に仕事に情熱を注いだからこそ悲劇は起きたんだ。

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