課長の独占欲が強すぎです。

「それどころじゃないよ!杏子ちゃんも1度うちの部署来てごらんってば。ほんっとに宍尾課長ってばおっかないんだから。あれはもうクマだね、ヒグマ」

 冷えたサワーが注がれたグラスを握りしめながら、私は今日の宍尾さんの事を思い出していた。

 あれからすぐに宍尾さんは取引先へ行ってしまい、やりとりを見ていた東さんが

『ごめんね、橘さん。他の部署と違ってここではお茶を淹れる習慣ってないんだよ。ほら、事務の人手が少ないからさ、余計な負担をかけないようにって課長が廃止したんだ。先に言っておけば良かった、ごめんね』

そんな風に謝ってくれたけど、私は『東主任は悪くないです』と頭を横に振った。

 確かに、以前の部署は年配の人が多かったせいでお茶を淹れるのが習慣になっていたけど、今時そんな古臭い事をしている部署の方が圧倒的に少ないのだ。

 それを予め確認せず勝手なことをしようとした私が悪い。自分の仕事さえもいっぱいいっぱいでモタついてたのに。

 でも、モノには言い方ってもんがあると思う。ただでさえ大迫力の容姿をしてるのに、あんな凄む様な声で見下ろされながら叱られたら普通の女子だったら誰だってビビッてしまうに決まってる。


 時間が経って冷静さを取り戻しはしたものの、やっぱり宍尾さんにいい印象が持てなかった私は、帰り際に取引先から戻ってきた彼とすれ違った時にも目を合わせられずそっけない『お疲れ様でした』しか残せなかったのだった。


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