オレの妹レジェンド
妹とアルバイト
海麗が初めてアルバイトをしたのは、高校三年の冬だった。大学の推薦も決まって、時間が余ったとアルバイトを始めると言った。

オレは内部推薦を決めて、陸都は美大への推薦を決めていた。オレは空いた時間を趣味と自動車学校に使い、陸都は絵を描きまくっていた。

海麗のアルバイトは歯科医院での雑用だった。ガーゼを織ったりアルコール綿を作ったりなど、簡単な仕事内容だった。

初日、海麗はニコニコしながら帰ってきた。

「あのね。日ノ岡さん覚えてる?時村歯科の」
「あぁ、歯医者のお姉さんな」

時村歯科はオレらが高校一年まで通っていた歯科医院だ。院長がもう年だということで閉院してしまった。家族中でそこに通っていたので、家中でパニックになった。兄貴が時村先生に手紙を書いて、先生が信頼している先生を紹介してもらってそこに今は通っている。

日ノ岡さんはそこで働いている歯科助手さんで、保育園時代はそんな職業があるとは知らないから歯医者さんにいるお姉さんと呼んでいた。

日ノ岡さんはそんな器量は良くはなかったが、明るく、優しかった。怖くても手を握ってくれるだけで安心した。泣かずに治療を終えると、自分のことのように喜んでくれた。ゲームが好きらしく、子どもの気を引くためによく流行のゲームの話をしてくれた。

ゲーム好きのオレと海麗は彼女が大好きだった。中学生の頃も海麗はいろいろと彼女と話をしていた。

その日ノ岡さんがどうしたと聞くと、

「バイトに入った歯医者にいたの」と答えた。

「へぇ。そうか、良かったな」

「日ノ岡さんと一緒に働けてラッキー。」

「話に夢中になりすぎて迷惑掛けんなよ」

「分かってるよ」

海麗が嬉しそうで良かったと単純にそう思っていたが、次の日から

「あー、あのババア、マジウザイ、鼻毛出てんだっつうの」

と悪態をつきながら帰ってきて、ソファに乱暴に座った。海麗の髪から歯医者の独特のにおいがした。

「どうした?」

海麗のイラつきの原因を聞いた。

「本当、ムカつくあのババア」

「だから、ババアって誰よ」

「院長の母親!」

「なんで院長の母親がいるんだよ!てか、いくつだよ」

「元、助産師だか看護師らしいよ。あの化粧のあつさからするとオーバー80は言ってるんじゃない?」

「80のばあさんが歯医者で何してんだよ!」

「受付とか?なんかババアが余計なことして、スタッフさんが怒られてるの!自分がやるからっていっておいて、忘れて放置して、そのたびに診療止まってさ、私はバイト初日だから帰ってきたけど、まだ終わってないと思う」

「嘘だろ!もう9時だぞ」

そこはショッピングセンターの中にある歯科でそこは9時までだ。

「院長がちょっとしたことですぐ怒るし、言葉の接続詞間違えたり、謙譲語を間違えただけでずっと起こってるんだよ。日ノ岡さんたちが可哀相だよ。時村先生だって、新しい所の先生だって怒んないことでずっと怒ってて、それがすごいネチネチしてんの。サトミヤみたい。」

サトミヤとは海麗の高校のバレー部のコーチの名前だ。プレイのことを怒るのはまだ良いらしいが、それ以外、持ち物や普段の髪型にまで口を出してくるらしい。そしてそのときの怒り方がネチネチとして女の嫌な所を丸出ししていると女の海麗がいうのだ。

帰ってくる度にその院長と母親の文句が増えてくる。

まぁ、文句を言ってるだけだからこっちにはさほど被害がないし、辞めたくなったら辞めるだろうと思っていたら、意外なところに火花が飛んできた。

日曜日は歯科は休みだ。久しぶりに3人で映画を観ることにした。科学捜査を題材としたサスペンスドラマが映画がしたというので、それを観ることにした。

予告が始まった頃に、海麗がスマホを出して、外に出ていった。すぐに戻ってきたが顔が明らかに怒っていた。

真ん中に座ってた陸都が何か聞いていたようだったが、海麗のスマホに何か書き込むとこっちによこしてきた。

画面には、「歯医者のばあさんから電話で、歯医者行って昨日消毒した器具を片付けろだって」と書いてあった。

関係ないオレも流石に少し、イラッとした。

映画を見たあとにファーストフード店に入って、もう海麗にバイトを辞めろと言った。院長が言ってくるならまだしも、なんで婆さんが言ってくるんだ!しかも海麗はアルバイトだぞ!

なんで休みの日まで拘束されないといけないんだ!

海麗もそうだね。辞めるよと言ってハンバーガーにかじりついた。


< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop