片道切符。


…一目見れればいいとか、そんなの嘘だ。

実際に彼女を視界に入れたら、身体の奥から彼女への気持ちが溢れてきて、止まらない。


予防線を張ったあの日から、こんなに苦しくなったことはなかったのに。

自分のなかでつけたはずの区切りが、一気に崩壊したようだった。


いいタイミングがあったら、話しかけたい。

それだけだった。そのときの俺は、それだけの感情で動いた。


彼女の背後から近づくと、彼女たちが何を話しているのかわかった。

…女子って好きだよね、恋愛の話するの。

恋バナっていうやつ? …ほんと、好きだよね。


俺は彼女の後ろをそっと通り過ぎた。

愛実には、どうやらカレシがいるらしい。

…当たり前か。あんなにも大学生活楽しんでますって容姿してるのに。

いないほうがおかしいよな。面白くなんかないけど、笑える。


俺はそのままレストランを抜け出して、外へ出ると、小雨が俺を迎える。

興醒めだ。飲み直すべく、近くのバーに入った。

そこで飲んでいたのが、カリナをはじめとする派手めなグループ。


お互い酒入ってたし、高校が同じってだけで、なんとなく盛り上がれた。

それにそのときの俺には、相手が誰だろうと関係がなかった。


変わらずに立ち止まっているのは俺だけで、それも俺が勝手にそうしてるだけだ。

だったら変わらなきゃいけないのは、俺のほうなんだ。

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