片道切符。


「え……」

「家までは送らない。駅まで、…最寄り駅まで送る。」

ベンチに隣同士で座ると、昔のことが思い出されて、なんとも言えない気持ちになる。

初めて会ったあの時は、不思議なくらいにぽんぽんと言葉が出てきて

すごく、楽しかった覚えがある。


お互いに口を閉ざしたまま、空を見つめる。

遠くで、花火の上がる音がする。


「…見えんじゃねーの?」

「……ん?」

「花火。」

「…うん。」

返事はしたものの、動きを見せない彼女を、伺うように横目で見やる。

彼女は地面を見つめたまま、その瞳を暗く曇らせている。


…やっぱ送るだなんて、言わなきゃよかったか。


俺が立ち上がれば、彼女はゆっくりと俺を見上げる。


「タクシー乗って帰れよ。」

「……え」

「やっぱ、送れない。」

俺がそう言葉を放った途端に、彼女の瞳が揺らいだ。

嫌だとでも言うように、俺の腕を咄嗟に掴んできたのは、どういう心境でのことだ?


「……や…だよ」

俺の腕を掴む彼女の手に力が籠る。

「は…、何?」

「…いや、だよ。…帰り、たくない。」

キッと俺を見上げるその瞳、その奥に潜む本心がわからない。

< 38 / 64 >

この作品をシェア

pagetop