片道切符。


「…ぎゅう、して?」

もう俺は、文句を言わなかった。

黙って彼女の言葉に従う。


どうすればいいのかは、わかっていた。

だって、彼女がそうねだるのは、昔と同じだったから。


身体の関係…ってやつか。

そうぽそりと心の中でつぶやきながら、彼女を腕の中に包んだ。


すりすりと、彼女が俺の胸に頬を摺り寄せてくるから、

俺も遠慮なく、彼女の髪に顔を埋めた。

あの頃と変わらない、彼女の香りがする。

ほっと心に広がる安心感のようなもの、これはなんだろうか。

彼女の背中に回す腕に、思わず力が籠った。


「まひろ…?」

「…うん?」

しばらく抱き合っていると、彼女が俺の名を呼んだ。


「私ね、今年で大学も卒業でしょう」

「…うん」

内心、そうか、もう4年になるのかと思いながら、彼女の話に耳を傾ける。


「来年からね、貿易会社に就職することになったんだけどね、

私…バンコクの支社に勤めることになったの。」


バンコク…

俺、頭悪いから世界の地理とかよくわかんないけど、

たしか、東南アジアのどっかの国のことだよな…?


海外での就職が決まったのか…。

愛実は高校のときから、海外に目を向けてた。

大学だって、海外で働くために、国際関係の勉強したかったから

地元を離れて、遠くの大学へ進学したわけだ。

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