月だけが見ていた
私たちは、もう一度きつく抱きしめ合った。
司くんの背中に腕を回す。


「会えてよかった」

「わたしも。」


もう 涙は出ない。



「上原」


司くんと見つめ合うのは 本当にこれで最後だ。


「俺は、上原が幸せでいてくれたらそれが一番嬉しい。それだけ覚えてて」

「……うん」


唇と唇を合わせるだけの、軽いキスをくれる
永遠に愛しい人。




「ーーー さよなら。」




司くんがそう言った途端
周囲が霧に包まれたように、真っ白になった。

司くんの姿もだんだんと見えなくなっていく。


「司く…」


まだ伝えたいことはたくさんあるのに
遠ざかる意識の中で、上手く言葉を探せない。

司くんと繋いでいた手の感触も、いつの間にか無くなった。



「ーーー 上原」



もうほとんど何も見えない、白に支配された視界。
司くんの声が耳元で聞こえた気がした。




「大好きだ。」


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