月だけが見ていた

司くんの事を想うと
今でも胸が痛む。

全てを覆っているように見えるかさぶたの下の傷口は、きっとまだ生乾きなんだろう。


それをわざわざ爪の先でつついて
治り具合を確かめるように彼の事を思い出すのを、私はもうやめた。



忘れる事なんて出来ない。

でも恋しくて泣く夜ももう無い。


きっと、それでいいんだろう。

彼もそれを喜んでくれるだろう。



「葉子?」



修治さんが私を呼んだ。
心の中までくすぐられるような 柔らかく、優しい響きでもって。



「おいで。」



ーーー 私は 私を生きていく。

手を引いてくれる、この人と一緒に。



「……うん。」




寄り添って歩く私たちを


月だけが見ていた。





《 完 》
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