泣き虫イミテーション
 二衣は朝早くに実家をでて、光成のマンションに向かう。静謐な朝の空気。ピンとはりつめた湿度。
 いつもは華美に見えるエントランスの装飾もそうとは見えず、むしろ安堵すら覚える。あの家の重苦しさに比べたらどれだけいいものか。
 半ば駆け込むように、部屋のドアを開いた。
 瞬間、心が冷えていく。
 一つの靴もない無機質な玄関。空調の効いてない部屋の温度。

「・・・ミツ?」

 いないとわかっても呼び掛けてしまう。
 信じがたいこと。

 二衣は知っている。
 光成にとって二衣の優先順位はかなり高いということを。それは光成の恋情の現れだから。
 だからこそ信じられないこの外と繋がる部屋の静けさ。
 二衣は玄関の床にへたりこむ。

「ねぇ、光成くん・・・・・・・」

 欠けたピースはどこにあるのだろう。
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