泣き虫イミテーション
妖喫茶なんてイロモノだが案外受けはいいもので、列が途切れることはない。魔女の仮装をした屋敷の主こと、実行委員若松は生徒限定の恋愛占いコーナーまでもうけている。そこの盛況ぶりもすごい。

光成は紅茶を運んで、女性客の足元に膝まずき手の甲に口づけするサービスつきだ。演出過剰だとも言ったが、女子の強烈な押しに負けた形になる。

お店は賑わっているがもうすぐ交代の時間で、光成も今日は男友達と回る予定だ。

にわかに廊下が騒がしくなった。文化祭の間はずっと騒がしいようなものだが、それらとは質の違う騒がしさだ。そう、驚きのような。少し教室の外を気にしながら給仕していたから、光成はすぐに気づいた。その二人の姿に。

「…一衣さん」

教室に二衣と一衣が入ってくる。藤森西の生徒なら誰もが知っている橘二衣とそれにうりふたつのもう一人。教室にいた何人もの視線が入り口に注がれた。

二衣の手を引く一衣が光成に気付く。二衣は諦めたような無表情で、俯いていた。

「みつくん、久しぶり」

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