泣き虫イミテーション
「ああ、恥ずかしいね」

二衣は笑う。でもごまかさない。


「西野、これ二人分の会費ね。来て30分しかいなくてわるいんだけど、帰るわ」

「へいへい楽しんでおいで」

光成は二衣の腕を掴みカラオケルームから出ていく。それを見送ってから、やっと呆然としていた面々がいま起きた出来事について何事かと話し出した。
一人、壁を作るようにトランプの裏を見つめる朔良の、隣に若松が座る。

「追いかけなくていいのかい?」

「少女マンガじゃないんだから」

「たしかに少女マンガのヒーローがこんな調子じゃしまらないものね」

「しょうがない。俺には止めることも振り向かせることもできやしないんだから。二衣さんは一人で決めてしまったから」

「でも、二衣さんは悩んだよ。君と朱本を天秤にかけてえらんだんだよ」

「俺は選ばれなかったんだろ」

「二衣さんはジュリエットのとき言ってたよ。最初に、イケメンで秀才でスポーツ万能しかもお金持ちなんていうハイスペック朱本と出会ってるのに、後から出てきた朔良くんなんかに恋できるのかなって。そんな比べるまでもないみたいな言い方したくせに、二衣さんは君と朱本とで、悩んだんだよ。スペック以外を見てくれていたならそれはもう恋に等しいんじゃないのかな」

「今さら弱気に、すごく根源的なことを言うんだけど、恋ってなにさ」

「それに対する正しい解を私は持たないけれど。こう答えることにしてる。

恋は呪いだよ。

相手のことしか考えられなくて

相手の全てを手に入れたくて

相手のそばにいたくて

衝動と理性の間でもがく魂の奪い合い。

それを恋と呼ぶのだと思うよ。」

「呪い、ね。自分じゃ止められないものなら、しょうがない。」

朔良はゆっくり立ち上がる。

「行ってらっしゃい。面白い話を期待してるわ」

「焚き付けといてそれかよ。はあ、行ってくる」

まだ、間に合うだろうか。
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