【好きだから別れて】

・命の尊さと偽りの目

捨てきれぬ気持ちをいだき、瞬く間に4ヶ月が過ぎた。


一際目立つ前に突き出した大きなお腹を抱えあたしは平然と生きている。


悠希とのあの日の出来事は誰にも言えないし、誰にも言わないって誓ったから。


だからひたすら前を見て、とにかくこの子を無事に産もうとしていた。


大きく突き出したお腹を見ても真也の態度は以前となんら変わりなくて。


いがみ合うわけでも愛し合うわけでもなく。


ただなんとなくお互いは当たり障りのない距離を保って過ごしていた。


気付けばあたしは25歳になり、悠希と別れてから約一年が過ぎようとしている。


結婚・出産にはちょうどいい25歳。


世間並にうまく結婚してちゃちゃっと子供を産み、育てる。


これが大切な人を失って選んだあたしの道。


後悔なんて


きっとしないよ…


妊婦には暑くもなく寒くもなく過ごしやすくなった10月初旬。


真也が友達の結婚式に呼ばれ実家に泊まりに行っていたせいもありあたしはどっぷりハマっていたゲームを徹夜して、二時間も睡眠をとってないフラフラな朝6時を迎えていた。


ゲームのコントローラー片手に寝落ちをかまし、布団の中でよだれを垂らしていた真っ只中。生ぬるい液体が下着を通過して太ももまで濡れて気持ち悪さで目覚めた。


破水?尿漏れ?


経験がないだけにどう判断をつけていいのか困ったが、三人も産んでる母なら判断がつくだろうと推測して下着を脱ぎ、母を無理矢理起こして下着を恥ずかし気もなく見せ付けた。


「おかん。歩、尿漏れとかやばくね?生ぬるくて気持ちわりぃんだけど」


「ちゃんと見してみ…ってバカ!あんた破水してんじゃない!今すぐ行かなきゃ赤ちゃんダメになっちゃうって!」


「嘘!?破水!?えっ、破水したらやべぇの!?」


「普通は陣痛が先!破水して羊水なくなったら大変な事になっちゃう!ほれ、急いで車に乗って」


母があまり興奮で騒ぎ立てるものだからあたしは下着を履き忘れそうになり、慌てて下着を履いて事前に用意していた出産用品を車に押し込め病院へ行った。
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