【好きだから別れて】

・離した手を…

退院後。


光の成長はやけに早く感じられた。


ベビーバスに張ったぬるま湯に身を浸けられ、気持ち良さげに頬を桃色に染めたり。


何度変えてもきりなくオムツを汚し、眠気がくれば泣いて訴えかけたり。


近くによると口元がミルクくさくて、放たれる匂いすらいとおしくて。


毎日毎日、頬擦りしてしまう。


母乳を与えるため光を抱きしめると、光の体温を肌で感じ心地よくもなる。


ーー小さい体なのに一生懸命呼吸してるや。生きるってこういう事なんだな


命の大切さや尊さを学ばせてくれる光の顔をみていたら、なぜか涙が溢れた。


あたしに抱かれ眠る小さな光。


その小さな光が可愛くて可愛くて食べてしまいたくなる。


目に入れても痛くないなんてよく聞くがそんな次元を通り越し、もしこの子の目が見えなくなったら迷わずあげてもいい。


それくらい全てに感じる。


残念だが真也に似て血を受け継いでいる光は、あたしの愛なしでは生きられないかのように床に寝せるとすぐに泣く子だった。


おくるみにくるみ軽く揺らすと、まだ見えもしないのに澄んだ瞳で見つめてくる。


精一杯思いをぶつけてくる光はまさに無垢で真っ白だ。


この子はすさんだあたしを泣いて「ママ。ママ」と求めてくれているのだろう。


その声に応えたくて寝る時間を惜しみ、夢中で光の側を離れなかった。


ーーあたしの子。歩だけの子


本当は真也と二人の子なのに…


時間が重なるたび自分だけの子と強く思うようになり、光を真也に抱かせる事さえ嫌だった。


真也との関係が以前と変わらずうまくいっていなかったせいも一理あった。
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