【好きだから別れて】
「ママね。パパじゃない人が好きなんだよ」


日中、真也がいないのをいいことにあたしは理解などできない光に母親として決して言ってはいけない言葉を呟いた。


「ママ、ズルいんだ。大好きな人から逃げて愛してないパパのとこに飛び込んじゃったの。ママね、弱虫なんだぁ…光ぅぅ。光はママの天使なんだよ。光がママを選んで生まれてくれて本当に後悔なんかしてないんだから…後悔なんて…」


光は指をしゃぶり「あああっ」と声を発し、あたしの口元を目で追う。


理解出来ないとはいえ、光は真也の血を分けた子。


その子に酷い事を言い、心が折れてしまいそうだった。


「ごめんね」だけじゃ足りはしない。


父親を全否定しているのと一緒だし、生まれてきたのも否定してるのと一緒なのだから…


指を光の手に持っていくと小さな指でギュッと握られる。


溢れてしまう涙を拭い、あたしは光の頬に頬ずりをした。


柔らかなもち肌がしんなりと吸い付き、心を癒してくれる。


死ぬまで最大の愛を注いでいくのは光だ。


この子しかいないんだ。


「ママが守るから元気に育ってね。光はなんも心配しなくていいんだよ。大丈夫。ママ幸せなんだから」


小さな光は口を開け笑っているように見えた。


「ママ泣いちゃだめでしゅねぇ。笑わなきゃねぇ。ひぃ君はずっとママの側にいてよ。ず~っとね」


か弱く頼りない光を抱き体をひくつかせ、益々涙は止まらなくなった。
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