【好きだから別れて】
「なんもしねぇからよこせよ!」



「やだっ!」



「光泣いてんだろ!」



「お前が裁判所いかねぇからこうやって光まで犠牲になんだ!借金とかなんだよ!ざけんな!てめぇ一人で綺麗にしやがれ!」



「はぁ…」



はらわたが煮えくり返る苛立ちで近所などお構いなしに大声をあげ真也を責め立てたら、真也は光の足を離し、わざとらしいため息をついた。



訳もわからず大人の事情で起こされ突然足を掴まれた光は、苦しそうに泣き通しで、夜泣きの域を越え虐待の域に匹敵している。



あたしが光を抱え黙っていると、真也は近くを離れ扉に寄りかかり、ダルそうに口を開いた。



「債務整理なんかするかっつの。友達に笑われて恥も恥だ」



友達、友達、友達…



家族よりも友達。



金よりもプライド。



だから光が産まれた日ですら友達の結婚式が優先で、すぐに駆けつけなかったんだ…



「お前はプライドで飯が食えんだな!」



「プライド捨てたら終わりだろ!」



「子供一人養えねぇだせぇプライドのくせ偉そうにすんな!家族を守るってのはな、プライド捨てることなんだよ!」



「いかねったらいかねっつうの!恥さらすくらいなら死んだ方がマシだ!」



いくら言っても通用しない相手だとわかりだしていたし、優しさとは程遠い相手だと知っていたが、ここまで言って伝わらないとは絶望的だった。



コイツ終わってる。



そう言い聞かせ自分を慰めるしかなかった。
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