雨に似ている
「!! ショパンだ、ショパンの『別れの曲』」

貢は階段を駆け上がりながら声をあげた。

階を上に進むごと、はっきりと聴こえてくるヴァイオリンの旋律に胸が高ぶる。


「『別れの曲』をヴァイオリンで」

郁子が首を捻る。

「音色自体は弱々しいかけれど、技量はたしかだな。こんな演奏をするのは……」

貢は言いかけハッとし、詩月のヴァイオリン演奏を思い出し「郁、このヴァイオリンは……彼だ!」
と、確信したように叫ぶ。

「彼……まさか、周桜くん?」

「ああ、彼だ! 間違いない??」

「まさか? 彼はこんな弾き方しない」

郁子は信じようとはしない。

「このヴァイオリンの音は周桜詩月だ!!」

貢の階段を駆け上がる速度が増す。


「なんて切ない『別れの曲』なのかしら。……胸が締めつけられる」

「ああ……泣いているな。こんなにも悲しく切なく歌うヴァイオリンは俺も初めてだ」

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