雨に似ている
詩月は「わかっているんだ。頭では十分にわかってるつもりだ」と、西之宮に反発しそうになる。


「楽譜を繰り返し、しっかり復習ってみろ。お前自身の解釈、お前自身の弾き方が見えてくるはずだ」

転入以来、幾度も西之宮から聞かされることが詩月には今ひとつ理解できない。

楽譜は、目を閉じていても完璧に弾けるほど暗譜している。

一音一句、間違いなく完璧に憶えている。

なのに頭と指が別々に動いている気さえする。


楽譜を片付ける詩月に西之宮が、力強くも温かく念を押すように言った。


「周桜! お前は周桜Jr.ではなく『周桜詩月』だ」
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