雨に似ている
前の高校で自分の演奏を否定した教師が、実は自分の演奏を高く評価し、父を越えるピアニストに育てるために厳しく指導していたことを聞いた時、ただ父と比較し色眼鏡で見ているだけだと嫌い、自主退学して逃げた自分への自己嫌悪も手伝い、すっかり自信喪失してしまっている自分への苛立ちと怒りと自分自身のピアノ演奏なんてできないのではないかという不安が常につきまとう。

このままでは、更に自分自身を見失ってしまうかもしれない。

詩月は、 それが怖かった。

「周桜! 何をためらっている? 何を考えて弾いている?」

詩月の演奏が噂され始めて半月を過ぎた頃。それまでずっと沈黙していた西之宮が、レッスン中に声をあげた。

「周桜宗月の演奏がそんなに気になるのか?自分の演奏が父親に似ていることがそんなに嫌か?」

詩月は「はい」と答えそうになる。


「周桜宗月。確かにあれほどのピアニストが父親で、しかも演奏が似ていると言われれば意識もするし演奏に影響もでるだろう。周桜Jr.と呼ばれることも嫌だろう。だかな、お前はお前だ。親子なんだ。多少似たところもあるだろう。なあ、周桜。そんな細かいことに一々捕らわれず、もっと自由に弾いてみろ。お前は周桜詩月だ」
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