雨に似ている
――いつもは、はっきり言うくせに

詩月は演奏放棄した演奏と郁子の演奏を思い浮かべ、悔しさと虚しさで胸がいっぱいになる。


「緒方の演奏を聴いていたら、父さんのショパンと僕のショパンが頭の中でごちゃ混ぜになって……頭痛と吐き気、息苦しくなって目眩がして……後は記憶がない」


「暫くなかったのにな、パニックは」


「ショパンを弾くたび、不安になる」


「お前は『周桜宗月Jr.』なんかじゃない。周桜詩月だ」

俯いた詩月の耳に、理久の凛とした声が響く。


「自分の演奏に自信を持て」


「それが1番難しいのに……」

詩月がポツリ溢した愚痴。
理久はそっと詩月の頭を撫でた。



詩月は1人過ごす病室ほど、暇で侘しい所はないと思う。

何度、経験しても何日居ても慣れないし、心地よい空間にも思えない

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