雨に似ている
弾き方が、母親に似ていると言われる。

が、ピアノのように喧しく攻められたり咎められたりはしない。


詩月はピアノの練習で行き詰まった時に、ヴァイオリンを弾くと気持ちが落ち着き、穏やかな気持ちに戻れる気がする。

師事している教授や師匠から度々、ヴァイオリニストを目指してはどうかと言われる。

が詩月は本気で、ヴァイオリニストを目指そうと思ったことはない。


母親を見ていて、詩月は思う。

人の流す涙に軽い重いはないと。
そして、母の流す涙に比べれば自分の涙も自分の悩みも、とるに足らない小さなものだと、母親の泣いている姿を見るたび思う。


母親の目指した夢、諦めた夢。
流した涙の数だけ、喜びも悲しみも後悔もあるのかもしれないと。


「晴れた日もあれば、曇りの日も雨の日もある。優しい雨も降るし、激しい雨も降る。その繰り返し。
詩月、人生は『雨に似ているの』。色々な雨を凌ぎながら、人は生きてる」

詩月は幼い頃。
ピアノの課題を上手く弾けず、レッスンから泣いて帰った時、母が語った言葉を思い出した。
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